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最近、ドキュメンタリー映画がすごい勢いで増えています。何かの統計データを見たわけではないけど自分自身、映画館に観に行く作品の半分近くがドキュメンタリー映画になっていることを考えてもやっぱりすごい勢いで成長している分野だと思います(20年前は劇場にドキュメンタリーを観に行くことなんてまず無かった)

ドキュメンタリー製作に携わる親友に聞くと、近年のデジタル化によって製作コストが激減していることで一番の恩恵を受けているのがドキュメンタリー分野だそうです。フィクションは演者、小道具やセットの手配、段取り等が格段に大変で、カメラやフィルムにかかるコストがいくら下がっても撮影以外にかかる労力が膨大。でもドキュメンタリーの場合は、極端な話「面白い人」を一人見つけて、あとはカメラを回しさえすれば良い。撮影のコストの低減がそのまま敷居の低さにつながるから素人でもドキュメンタリーは撮れるよ。だからお前も撮ってみろよ。と。

確かに、最近の例でいえば劇場公開されたドキュメンタリー「世界一売れないミュージシャン KAZUYA」も「加藤君からのメッセージ」も監督はほぼ素人。すごく乱暴に言ってしまうと素人が個性的で面白い人を撮っただけ。でも面白い。撮影対象者が面白いから。

そしてそんな「実在の面白い人」ではなく、思い切りぶっ飛んだ「架空の面白い人・事件」をでっち上げて、ドキュメンタリーとして上映して観客を騙してしまうというのが「フェイク」「モキュメンタリー」という分野。フィクションの面白さとドキュメンタリーの手軽さを併せ持った素晴らしい分野です。フェイクで一番有名なのが言わずと知れた1990年代に世界的に大ヒットした「ブレアウィッチプロジェクト」。

あの作品が凄かったのは、インターネット黎明期の1990年代に映画を撮影した後、インターネット上に「実際に起きた事件を記録したと思われるフィルムが見つかった」としてネット上にデマを流したことだと言われています。このデマが爆発的に拡がり、「実話」だと信じた人たちが映画館に殺到しました。(数年前に大学時代の友人に会ったところ、いまだに「あれ実話だぜ」と真顔で言っていたくらいだから、当時のデマの拡がりの凄さを物語っています)

あれほどの爆発的世界ヒット作品が生まれる前にも、更に思い切りぶっ飛んだフェイク(モキュメンタリー)は存在していました。「ありふれた事件」(これをVHSで初めて観たとき本気で警察に通報しそうになった・・・)。日本でいえば浅野忠信がキレるオタクを演じた「フォーカス」、2月14日から上映される「味園ユニバース」の山下敦弘監督による「子宮で映画を撮る女」。

この3作品、絶対に観たほうが良い。もうヤバいから・・・

ありふれた事件

これを初めて観た時、警察に通報しそうになりました(マジです・・・)1990年代当時はまだインターネット環境も整備されていない時代。まだYoutubeなんかは当然存在していなくて、映画を観る手段は「映画館」以外であれば「VHSビデオ」の時代。そんな時代のビデオにまつわる都市伝説に「スナッフビデオ」というのがありました。

これは「”殺人マニア”が実際に拷問・殺人している様子を撮影した違法ビデオが地下で出回っている。」という伝説。都内某所の照明を消された高級マンションの一室に殺人マニアたちが集まり、みな覆面を被って互いに誰だかわからないような状態で殺人ビデオを鑑賞する。参加費は一人300万円。参加者の中には著名な政治家や実業家もいるらしい・・・そんな違法ビデオを「スナッフビデオ」と呼び、スナッフにまつわる恐怖話が都市伝説として語られていました。

そんな違法ビデオがふとした手違いで市場に紛れ込んでしまうことがあり、それと知らずにホラー映画だと思って観ているとどうも様子がおかしい。突然拷問を受けている男性が酷い暴力を受けているシーンが出てきたと思ったら、逃げ惑う女性を後ろから銃で墜ち殺すシーンに切り替わったり、ストーリーは全く無く、人が殺されるシーンが連続する。役者は演技をしているようには見えず、血のりや傷がやたらにリアル。スタッフロールも何もないから出演者も製作者も誰なのか全くわからない。そんなビデオを見つけてしまったら・・・それは「スナッフビデオ」だと思って間違いない・・・そういえばどこそこの誰かが観ちゃったらしいぜ・・・

そんな噂話を囁いては恐怖していた時代。初めてレンタルビデオ屋で隅の方に置かれた、この「ありふれた事件」を借り、何も知らずに夜中にひとりで観た時に驚愕しました「スナッフを見つけちまった・・・」それくらいこの映画はリアルで衝撃だった。



この映画の主人公ブノワは「殺人強盗」で生計を立てるプロの殺人者。彼のもとへテレビクルーが取材に訪れインタビューをするという完全な「ドキュメンタリー形式」で進行する。取材班がブノワに対して「どうやって人を殺すのか?」「殺した後の処分方法は?」とインタビューが進行。まだこの当時は「フェイク」という分野を知らなかったので、完全にドキュメンタリーだと信じ込みました。

そしてブノワは取材班に対して「現場を見せてやる」と、クルーたちを引き連れて犯行を実行。震え上がる取材班のカメラの前でブノワは次々と人を殺す。完全にブノワにペースを握られる取材班。次第に取材班は殺人に手を貸すことになり、後戻りできない状態に追い込まれる・・・途中で悪ふざけが入るので、これがフィクションであることに幸い気づきましたが、いや初めて観たときは本当に驚いた。

そして、肝心な内容の方はとにかく過激。人の良さそうなお婆さんから子供まで、とにかく殺して殺して殺しまくる。そして一番印象的なのは過激なだけではなく、ブノワのキャラクターが丁寧に作りこまれているところ。これがものすっごくリアルで勘弁してほしい。殺人者であるブノワの明るくフレンドリーで家族思い、自らポエムを読む知的な(?)芸術愛好家だがとにかく気性が荒く気分屋。そして当然のようにK.Y。そんな人間性が細かく描かれているのがとにかくリアルで面白い。

だって、いたでしょう?小学校~高校生くらいの頃にそんな先輩が。もちろん人は殺さないけど、明るくて陽気で中心的存在で、乱暴者でキレると超怖くて手が付けられない。だからなるべく会いたくないし可能な限りスルーしたい。もし会ってしまったら、なんとか早く切り抜けたい。関わりたくない。そんな先輩はほぼ100パーK.Yだった。皆が怖がっていることも、笑えないギャグにこちらが無理やり作り笑いをしてることにも気づかない。

ブノワを観ているとそんな「超怖い先輩」が脳裏に浮かぶ。逆にそこが怖い。そしてそんな人間味溢れるイカれた殺人者の機嫌を損ねないように取材班がビクビクと接する、一生忘れられないシーンがある。ブノワが殺人を犯した後に

「おい、お前らメシ行くぞ。今日は俺がオゴってやるからよ!!飲んで食って騒ごうぜ!!」

意気揚々と上機嫌に誘うK.Yブノワに怯えきってうつむく取材班。

「いや、今日はこれから別の仕事が入ってるから・・・」

こんなイカれたヤツと食事なんかしたくない。早く帰りたい・・頼むから解放してくれ・・・そんな空気が充満する取材班。

「仕事なんてバックレりゃいいだろ?」

追い込むK.Yブノワに更に凍り付く取材班。

「・・・・いや、実は・・・車が・・・無いから・・・・・・」

若干意味不明な断り方をする取材班。おいおいマジかよ・・そんな断り方したら殺されるぞ・・・。ブノワがキレるんじゃないかと観ている方も完全に凍り付くこの緊張感。あぁコワ・・・

苦手な人に不意に飲みに誘われた時、嫌な上司がくだらないギャグを放った時、誰も笑えない・断れない空気に凍り付く。こんな瞬間は誰もが経験している日常的な恐怖。殺人という非日常的な狂気の中にこんな日常的で現実味溢れる恐怖もしっかりと盛り込まれているからスゴイ。だからハンパなく怖いし面白い。更に一番すごいのが、ブノワ含めこの映画に出てくるたったの3人だけで製作しているところ!!3人で制作会社を設立して、脚本、監督、出演、編集まで全ての工程を3人だけでこなしたそうです

そしてどんどんエスカレートしていく殺人と驚愕のラストは是非観てみて欲しい・・・。去年めでたくイメージフォーラムでリバイバル上映を果たし、その後HD版がDVD化されたのでTSUTAYAで借りることもできます。

フォーカス

内容的には「ありふれた事件」とすごく似ています。ドキュメンタリーに見せかけたフェイクであるところも、取材対象である主人公(浅野忠信)が殺人を犯し、取材班が手を貸して後に引けなくなるというストーリーも似ています。違うのは主人公が気の弱い盗聴オタクであるというところと取材班の方が横柄でK.Yなところ。「ありふれた事件」とは似ているようで、設定が少し逆になっています。

設定を逆にしただけか?というとそんなことはありません。こちらは主人公の浅野忠信を面白おかしく取り上げようとする取材班と、それをなんとか食い止めようとする浅野忠信のやり取りがまたとてもリアルで面白かったです。あぁテレビ番組の裏側って、きっとこんな風になってるんだろうな。と妙に納得してしまうリアルさ。

生真面目に取材に応じる浅野忠信と、なんとか面白いシーンをねつ造しようとする取材班。そんな取材中、暴力団同士の取引の通信を傍受してしまう。「これは面白い!」と取引現場へ行こうとする取材班と「ヤバいっすよ!」と引き留める浅野。

結局取引現場へ向かう彼らにトラブルが襲いかかり、犯罪の世界に巻き込まれる。その時点で浅野忠信がキレて急変。 ここからがスゴかったです。

「なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねぇーんだよ!!!」

声をブルブルと震わせながら絶叫し、セリフは支離滅裂になったりどもったり間違えて言い直したり。完全にキレて別人格のように豹変&錯乱した浅野忠信が意味不明な行動に出ることで、事態は更に悪化。とことん追い込まれていく様子がとってもスリリング。

子宮で映画を撮る女

この映画は昔下北沢で開催された「ガンダーラ映画祭」というドキュメンタリーの映画祭で観た映画で、監督は当時はまだ若手だった山下敦弘監督。この映画祭で松江監督の「童貞をプロデュース」も一緒に上映されていたという今考えると物凄い映画祭でした。そしてこの映画祭で最後にトリとして上映されたのが「子宮で映画を撮る女」でした。これの前に上映された作品は全てドキュメンタリーだったので、「フェイク」と気づかずに完全に騙されました。

この映画(「童貞をプロデュース」もそうだけど)、映画でこんなに大爆笑したのは「家族ゲーム」(森田芳光)以来初めてではないかというほど、本当に大爆笑しました。そしてこんなにも面白いのに、こんなにも大爆笑できる名作なのにソフト化はされおらず、WEB上にもほとんど情報が掲載されていないという信じられない状況。なんで?!山下監督と松江監督ほど名前が知られていて、あれだけ面白ければいくらだって利益出せるだろうに・・・と不思議で仕方がないけど、きっと色々と大人の事情があるのでしょう・・・

「子宮で映画を撮る女」の内容は、初監督となる作品がヨーロッパで大反響を呼び、世界的に話題を呼んでいる、とある女流新人映画監督が主人公で、彼女の第2作となる作品の撮影現場を追ったドキュメンタリーという設定。撮影がスタートするも、まだ若く殆ど現場に出た経験もなく、個性が強くて超ワガママな監督に完全に振り回される現場の様子を追います。

監督の突拍子もない行動と無茶な要求、意味不明発言に現場のフラストレーションは溜まる一方で衝突が絶えない。そんな混乱する現場に比較的大物(気取り)な男優(山本剛史)が投入されると、現場は更に混乱する。ドキュメンタリーとして観ていたので「こんなにヘンな監督と俳優が組み合わさるなんて、そんな奇跡的なことがあるのか?!」と驚きと爆笑の連続。

そしてラストがもう痛々しくて可笑しくて笑いすぎてお腹が痛くなったです。よくコメディなんかを「笑激の・・・」と表現するけれど、この映画のラストがまさに「笑激」だった。是非ソフト化(もしくは上映)して欲しいと願う名作・・・

以上、ドキュメンタリーと見せかけて実はフィクションという、観客をドッキリに陥れる「フェイク」(モキュメンタリー)。「ありふれた事件」も「フォーカス」もTSUTAYAで借りることもできるので、是非一度観てみることをおススメです。ただし夜中にひとりでコッソリと・・・間違えても家族や彼女(彼氏)とは観ないでください。下の予告でブノワも「デートで観るなよバカ」と言っています。



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